私がカナダの薬剤師と話していてとても驚くのは、薬学生のうちから豊富な臨床知識の幅広さです。
そこで、今回はカナダの薬学教育について少しお話していきたいと思います。
カナダで薬学部はいくつある?
2023年1月現在は11大学と言われています。一方、日本では2021年時点で、国立14大学、公立大学5大学,私立大学58大学で77大学です。
日本とカナダを比べると人口は大幅に違うといえど、いかにカナダの薬学部が狭き門かということが分かるかと思います。
高校卒業してすぐに薬学部に入るの?
なので、高校を18歳で卒業したとすると、少なくとも2年間はScienceやBiologyなどの基礎学部で”基礎”となる教養?を学びます。長い人は4年間の大学生活を終えて、学士を取得してから薬学部の入学をする人もいます。
これは、医学部や歯学部なども同じ仕組みになっています。面接も必須である大学もあるので、かなり選別されていることが分かります。
日本が高校卒業後にすぐに薬学部に入学できると説明するととても驚かれます。ただ、日本の薬学部教育は基本的には6年制です。薬剤師にならず、薬学部の学士のみを取得して研究の道に進む場合は4年制のコースもありますが(主に国公立大学)、ほとんどは6年制であると言えるでしょう。
カナダの薬学部は何年教育?
すでに教養は他の学部で学んでいることが前提なので、薬学部のカリキュラムは4年間です。
短くても6年間、長くて8年間の歳月をかけて勉強をして薬学部を卒業することになります。
最近では、卒業と同時に薬学部の学士に加えてPhamDを取得できるというコースもあるそうです。
どんなことを勉強するの?
もちろん薬学的知識を学びます。薬理学・薬剤学・毒理学などなど。。。ただ、臨床の分野にも力を入れています。すでに他の学部で基礎は学んでいるので、薬学部に入学したら薬学に関わることを集中して学ぶようです。
カナダは州によっては薬局で患者さんへの注射も行いますし、禁煙外来や処方箋の延長、処方箋の発行なども行います。特に、注射の中ではインフルエンザワクチンだけではなく、定期予防接種などを行う場合もあります。そんな実践に備えた実技も教わります。
詳しいカリキュラムははっきりとはしないのですが、4年生になるとローテーションと言ってほぼ1年中実務実習で現場で勉強をするようです。場所は調剤薬局・病院とその他施設yトラベルクリニックに行く人もいます。4年生になるとクラスメイトに会うことは予定を立てない限り殆どないとのことです。
薬学生の日常
薬学生は1年生の時から、アルバイトで薬局等で働く人が多いようです。はじめはレジ打ちやアシスタントのような仕事からスタートし、現場で多くを学びます。
また、カナダは夏休みが約4ヶ月と長いのです。その際に、薬局で長期で働く人や、大学の研究室でラボの仕事を手伝ったりする人もいます。人それぞれ自分の興味のある分野にある程度の期間身を置きながらお金も稼げるというシステムは面白いなと思います。ここで自分の学費を稼いでいる人もいます。
また、そういったところからコネクションを作っていく人もいます。
卒業したらどうする?
日本と同じように卒業が決まったら国家試験を受けます。国家試験の内容はVol.1でお伝えしたとおりです。カナダの薬学部を卒業した人の合格率は約95%と高い%です。一方で、外国人薬剤師の1度目の受験の合格率は50%を切ります。
やはり、1年生の時から薬局漬けの毎日を送っていると目にする扱っている実践のケースの多さが違いますし、薬学的問題解決能力がかなり高いように感じます。
そして、約70%以上が調剤薬局、15%が企業・政府・アカデミア(大学や研究機関)、15%が病院に務めるそうです。
薬剤師としての責任
特に私が住むアルバータ州では、薬剤師が業務として許されていることがとても幅広く、その分責任も重いです。
しかも、多くの薬局では一人薬剤師が当たり前です。よっぽど忙しい薬局では2人以上の場合もありますが、たった一人で薬局を回していく責任を任される重圧は自分がそうなったらと考えるとかなりハードルが高いです。
もちろん、調剤アシスタントや調剤テクニシャンなどがいるので全く一人ということはありませんが、大きな責任が薬剤師一人にかかるというのは負担が大きいとも言えます。ただ、それだけやりがいもあり、信頼されているという裏返しであることも間違いありません。
新卒の薬剤師が一番最新の情報を持っている?!
これは、私がカナダの薬局で働き始めて最も驚いたことです。
日本であれば、10年以上薬剤師として働くベテラン薬剤師は知識も豊富で、何かあれば頼りになる存在です。大学を卒業したての新米薬剤師は、現場に出て初めて学ぶことも多く、一人前の薬剤師として活躍できるまでには数ヶ月〜数年かかるのではと思います。
一方、カナダでは新卒の薬剤師が最も最新の知識を持ち合わせているというのです。なぜなら、大学でどのようなエビデンスをもって最新の研究結果が出ているのかということを学んでいるからです。
ボランティアをしていた時の薬剤師さんは薬剤師2年目の若手薬剤師でしたが、15年のベテラン薬剤師がこの若手薬剤師に対等に質問するなどしており、とても驚きました。更に、私がカナダで薬剤師としてインターンをする際は、卒業してから少なくとも4年以内で(かつカナダ国内の大学を卒業した)薬剤師に指導してもらうのがおすすめだと言われました。
まとめ
今回は、カナダの薬学教育のついてお話しました。
私は自身が薬学部を卒業後、大学院に進学後博士号取得を経て、日本で薬学部の教員として働いていました。だからこそ、日本に薬学教育について考えることがありました。
日本では高校を卒業してから自ら薬剤師を志して薬学部に入進学する人もいれば、親に言われままに薬学部に入学する人もいます。その間の学習へのモチベーションのギャップはかなり大きいものがあります。また、特に1・2年次で行われる教養分野でつまいてしまう学生さんも一定数います。
一方、カナダでは数年間学生生活を送った後に薬学部に進学するので、自ら志して薬学部に入る人が多いです。もちろん、親のためという人もいますが、それでも”自分で選択”して進学を決めています。だからこそ、薬学にどっぷりつかった生活になるので、国家試験の合格率もかなり高いのかなと思います。
カナダの薬学業界もここ10年でかなり変わってきていると言われています。さらに10年後の2033年にはどんな世界になっているか楽しみですね!日本の薬学業界も飛躍することが楽しみです。